国内最大の研究機関「国立研究開発法人理化学研究所」の非常勤職員が、2018年の3月末以降、大量に雇い止めされることになり、その期限が2018年3月に迫る中、労働組合は12月18日、東京都労働委員会に不当労働行為の救済を申し立てた。ここでは、2018年問題と呼ばれる大量の雇止めが起きる可能性について、その背景について調べてみた。
なお、「2018年問題」には、有期雇用労働者に関するものだけではなく、2018年ごろから少子化の影響により18歳以下の人口が減ることによる大学経営の問題など幅広い分野で2018年が起点となる問題があるようである。
ここで取り上げる「2018年問題」は、パートタイマーや派遣社員などの有期雇用契約者を対象とした2012年の労働契約法改正、2015年の労働派遣法改正により、多くの企業が2018年前後に雇用契約への対応を求められ、その際に企業にはコスト増大の可能性が考えられるため、大量の雇止めが起きることが懸念されている問題である。
そもそもこの問題の発端となったのは、2013年4月に施行された改正労働契約法である。改正労働契約法は非正規の労働者を5年以上同じ職場で雇う場合、本人が希望すれば、原則として「無期雇用」に転換しなければならないと定めている。これは、非正規(有期)雇用人口が増加し、有期契約労働者と無期契約労働者の間で、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の相違を設けることを禁止することを目的に改正され、そのポイントとして
- 無期労働契約への転換
- 雇止め法理の法定化
- 不合理な労働条件の禁止
が挙げられる。
このうち、無期労働契約への転換とは、同一の使用者との間で有期労働契約が反復更新されて通算して5年を超えたときには、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるルールである。2013年4月1日以後に開始する有期労働契約が対象となるため、2018年4月1日以降まで更新した無期労働契約者は5年を超えることになり、使用者に対して無期雇用の申込みが可能となる。ただし、ここでいう無期労働契約への転換とは正社員になることとは一致せずに、1年更新であった契約が無期になる無期契約社員化(処遇条件について変更無しも考えられる)も含まれるようである。また、無期雇用契約への転換には、労働者の申し込みが必要となっており、自動的に無期雇用契約に移行する訳ではない。
さて、報道された理化学研究所は、日本で唯一の自然科学の総合研究所として、物理学、工学、化学、数理・情報科学、計算科学、生物学、医科学などに及ぶ広い分野で研究を進めており、1917年(大正6年)に財団法人として創設された。戦後、株式会社科学研究所、特殊法人時代を経て、2003年(平成15年)10月に文部科学省所轄の独立行政法人理化学研究所として再発足し、2015年(平成27年)4月に国立研究開発法人理化学研究所となった。100年に及ぶ歴史ある研究所であり、また労働組合が東京都労働委員会に不当労働行為の救済を申し立てたため、理化学研究所における雇止め問題は大々的に報道された。しかしながら、報道は氷山の一角であり、特に中小企業などでは契約期間が5年を超えない2017年度末で雇止めをする可能性が高いと考えられ、こういった報道は今後も後を絶たないのではなかろうか。
改正労働契約法の肝は、「5年以上同じ職場で雇う場合、本人が希望すれば、原則として「無期雇用」に転換しなければならない」とする点であり、逆を返せば5年未満で雇止めすることで無期雇用への転換申請権利がないまま、解雇(契約終了)できる訳である。この法律の施行により、一部大企業などで正社員化、無期契約社員化などの流れが生じた点は評価されるべきである。例えば、労働契約法の改正がユニクロやスターバックスといった有名企業において、パート社員や契約社員を正社員化する動きが生じた契機になっている。
一方で、トヨタ自動車やホンダなど大手自動車メーカーでは、有期労働者が期限を区切らない無期労働契約に切り替わるのを避けるため、雇用ルールを変更したことが報じられている。また、大学では有期契約労働者の大量雇止めが計画されている。有期労働契約者と無期契約労働者との間の不合理な労働条件の是正を目的として改正された改正労働契約法が、骨抜きになり、結果として有期労働契約者の職を奪いかねない現状を鑑みると、また2017年度末にこのような問題が生じる事が容易に想像された改正労働契約法の施行には、雇止めに対する救済措置が合わせて必要なのではなかろうか。